2021.03.18
医療栄養学科 お知らせ
【医療栄養学科】薬物療法学研究室コラム『管理栄養士になるのに「薬」の勉強?(2)』【取組】
 医療栄養学科では薬学部にある管理栄養士養成課程として、管理栄養士として医師、看護師、薬剤師や他の医療従事者との連携に必要な薬の知識を学ぶことができるカリキュラムを持っています。

 管理栄養士国家試験にも薬に関する問題が少しずつ出題されるようになっています。先日行われた第35回管理栄養士国家試験(2021年2月28日実施)に出題された薬に関する問題(臨床栄養学という分野からの出題)をご紹介します。

118 医薬品と医薬品が栄養素に及ぼす影響の組合せである。最も適当なのはどれか。1つ選べ。
(1)アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬----------カリウムの再吸収抑制
(2)D-ペニシラミン--------------------------亜鉛の吸収促進
(3)メトトレキサート------------------------葉酸の代謝拮抗作用
(4)サイアザイド系利尿薬--------------------ナトリウムの尿中排世抑制
(5)ワルファリン----------------------------ビタミンKの作用増強

 この問題は医薬品の作用あるいは医薬品の栄養素に与える影響に関する内容です。下の解説は医療栄養学科の3年生くらいになると理解しやすい内容だと思いますが、高校生の皆さんには少し難しいかもしれません。難しすぎたら(1)~(5)の解説は飛ばして読んでください。

(1)アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬とは、アンジオテンシンⅡ(AⅡ)という血圧を上昇させる物質が働きかける受容体という場所をふさいでAⅡが作用できなくなる薬で、高血圧症(※1)に使われる薬です。AⅡは、大きく3つの働きで血圧を上昇させます。①血管を収縮させて血圧を上げる、②交感神経の働きを高めて血圧を上げる、③副腎皮質という内分泌器官からアルドステロンというホルモンを分泌させる。分泌されたアルドステロンは、腎臓に働きかけて水とナトリウムの再吸収(尿中から血液中に戻す)作用があり、血液量を増やすことから血圧を上昇させます。一方、アルドステロンは水とナトリウムの再吸収を促進する作用に加えてカリウムを排泄(血液中から尿中に)させる働があります。すなわち、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬はその働きを止めるので、「カリウムの再吸収抑制」ではなく、「カリウムの排泄抑制」が正しいことになります。従って、この選択肢は×です。

(2)D-ペニシラミンは、関節リウマチ(※2)の治療薬として使われますが、金属(亜鉛、銅、水銀、鉛など)と結合して錯体(キレート錯体)をつくる(キレート剤としての)性質があります。ペニシラミンは金属イオンと結合すると水に溶けやすい(水溶性)の錯体を形成しますが、水溶性の物質は尿に排泄されやすくなります。このためD-ペニシラミンは体内にある亜鉛などの重金属と結合して尿に排泄する作用があり、重金属中毒の治療薬としても使用されます。従って「亜鉛の吸収促進」ではなく、「亜鉛の排泄促進」が正しいことになります。従って、この選択肢は×です。

(3)葉酸は遺伝子であるDNAの元となる核酸の生合成に関連したビタミンの1つです。葉酸は生体内で活性型葉酸となって働きますが、メトトレキサートはこの活性葉酸への変換を阻止します(葉酸の代謝拮抗作用)。そのため、核酸合成が起こらないので、DNAの合成ができなくなり細胞の増殖が抑制されることになります。そのため、メトトレキサートは一部のがんやリウマチの治療薬として使用される薬です。従って、この選択肢は〇です。

(4)サイアザイド系利尿薬は、尿量を増やすことで体液(血液)量を減少させて血圧を下げる薬です。腎臓に働いて、水とナトリウムの排泄(血液中から尿中へ)を促進します。そのためナトリウムの尿中排泄は増加します。従って、この選択肢は×です。

(5)ワルファリンは、血液を固める(凝固)時にはたらくビタミンKの働きを抑制する薬で、血液の凝固を抑制することから脳梗塞や心筋梗塞のような血管の中で血液が固まって詰まることで生じる病気(血栓症)の予防薬として使用されます。従って、ビタミンKの働きは、「ビタミンKの作用増強」ではなく「ビタミンKの作用減弱」が正解です。ちなみに、ビタミンKを食べ過ぎるとワルファリンの効果が弱くなり血栓症を予防できなくなることもあります。このように飲んでいる薬に応じて食事に注意することも必要となります。

したがって、この問題の正解は(3)です。

 以上、管理栄養士国家試験から薬に関連した問題を紹介しました。このように管理栄養士も薬の知識が要求されることがわかると思います。長い説明になりましたが、この1問をしっかり理解して管理栄養士として実践に活かすには、他の管理栄養士養成課程でも学ぶ、解剖生理学や臨床栄養学などの科目以外に、医療栄養学科でしか学べない内容が必要となります。例えば、薬の作用について学ぶ「薬理学」、病気の治療に使う薬を学ぶ「薬物療法学A・B・C」、薬の効果を変えてしまう食品や栄養状態を変えてしまう薬について学ぶ「薬物食品作用学」など多くの科目が関係しています。
今後、医療栄養学科で学べる薬が関係する科目についても紹介していきます。

 皆さんも薬学部にある医療栄養学科で学んで、「薬に強い」管理栄養士を目指しませんか。

この国家試験を受験した医療栄養学科の卒業生のコメントです。
今回の国家試験で出題された相互作用についての問題は、必修科目の薬物療法学A、Bの授業でとりあげられた薬だったため作用機序についての知識があったため解くことができました。さらに薬物療法学Cや薬理学、薬物食品作用学ではさらに詳しく様々な薬や食品と薬の相互作用に関する知識が得られるため薬学部に所属する医療栄養学科ならではないかと思います。
今回の国家試験で栄養素と薬の相互作用が出題されたことは、これからの管理栄養士にこのような知識がより求められていると感じました。栄養と薬の関係を詳しく学ぶことができる授業があることはこれからの管理栄養士として非常に強みになると感じました。
薬学部医療栄養学科17期卒業生 渡口由姫


注釈
※1高血圧は血管内を流れる血液による圧力が高くなった状態です。血圧は血管が縮んで細くなったり、血管内の血液量が増えると血圧が高くなります。

※2関節リウマチとは、免疫の異常により、主に手足の関節が腫れたり、痛んだりする病気です。
【医療栄養学科】薬物療法学研究室コラム『管理栄養士になるのに「薬」の勉強?(1)』【取組】
研究室紹介ページURL:
https://www.josai.ac.jp/education/pharmacy/nutrition_dep/laboratory/yakubutsuryouhou.html
ハッシュタグ:
https://lab.naninaru.net/seminar/U25800/josai_pharmacy_sunaga

 
城西大学薬学部医療栄養学科
(管理栄養士養成課程)
薬物療法学研究室 
教授 須永 克佳 須永先生 
准教授 菊地 秀与 菊地先生 
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