2021.08.28
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新型コロナウイルス感染症にNO!

【最前線:一酸化窒素】新型コロナウイルス感染症予防 

2000年代初めに流行したSARSやMERSのコロナウイルス感染症は、世界に大きな衝撃を与えました。この時、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を伴った患者への一酸化窒素(nitric oxide: NO)吸入療法による治療が行われ、人工呼吸管理の期間や入院期間の短縮が認められ、有効な治療法の一つと考えられました。今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は全世界的なパンデミックとなり、多くの犠牲者をだしています。この病気が全身の血管内皮の炎症との考えから、欧米を中心にNO吸入療法による治験が行われ、重症度にもよりますが、その有効性が報告されています。日本におけるNO吸入療法(アイノフローR)については、新生児肺高血圧を伴う呼吸障害や心臓手術周術期の肺高血圧などの治療目的で保険適応がありますが、新型コロナのARDSなどには適応がなく一般的な治療手段ではありません。

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20210828 コロナ感染症予防にNO-2

NOは血管内皮などでつくられ、血管を拡張し、血栓形成を抑えるはたらきがあります。しかし加齢や生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常など)による動脈硬化があると、血管由来のNOがつくられず、これが新型コロナウイルス感染での重症化の一因であることが知られています。大きな期待を担うワクチンは、このウイルスのスパイクタンパクを標的としてつくられます。しかしスパイクタンパクに大きな変化を伴う変異株が出現した場合は、予防効果の更なる検討が必要になります。NOはこの新型コロナウイルスのライフサイクル(気道への侵入から宿主細胞への融合、ウイルスの複製)と宿主による炎症反応や血栓形成までの一連のプロセスを非特異的に抑制することがわかっています(引用文献1)(右図)クリックで拡大画像
最近の大規模疫学研究では、野菜の摂取や日常的な運動習慣が有意に、このウイルスの感染頻度、重症化、そして死亡率まで下げると報告されています(引用文献2,3)。私たちはその効果としてNOが強く関連しているのではないかと考えています。このNOを、私たちの体は、血管内皮などでつくる以外に、以下の3つ方法でつくりだすことができます(引用文献1)。 
① NOの元になる硝酸を野菜などの自然な形で摂取すると、唾液中に分泌され、正常な胃酸によりNOになります。ゆっくり、よく噛んでたべることが重要です。
② 食事由来の硝酸は筋肉などの組織に高濃度で保存され、レジスタンス運動などの無酸素運動時にNOなどに変換され筋肉や全身に作用します。因みに持続的な有酸素運動でも血管内皮へのshear stress(ずり応力)により血管内皮由来の内因性NOをつくることができます。
③ 副鼻腔では生理的に大量のNOが持続的につくられ、わずかですが鼻腔に放出されています。鼻呼吸は生理的なNO吸入になります。
このように食生活や運動などの生活習慣によりNOの利用を高めることは、もともとの生活習慣病の予防にも貢献すると同時に新型コロナ感染予防にも有効であると思われます。
因みに今、カナダのベンチャー企業で開発されたNO鼻スプレー(saNOtizeR)が、治験段階を経て、コロナ感染の予防のため市販される予定です。私たちも国内の研究機関(引用文献4)との共同で簡易型使い捨てNOバッグのクラッシュ症候群(地震などの災害時)における現場での適応と救命治療効果を動物実験で検証中ですが、新型コロナ感染症にも在宅などで使えないか模索中です。NO吸入療法は、恐らく肺だけでなく、全身にもいろいろな治療効果をもたらすことが期待できそうです(引用文献5)。
記事提供 薬学部 小林順・村田勇

引用文献
(1) Kobayashi J. Lifestyle-mediated nitric oxide boost to prevent SARS-CoV-2 infection: A perspective. Nitric Oxide (2021), 115: 55-61 
(2) Vu Thanh-Huyen T, et al. Dietary Behaviors and Incident COVID-19 in the UK Biobank. Nutrients (2021),13.6: 2114. 
(3) Lee SW, et al. Physical activity and the risk of SARS-CoV-2 infection, severe COVID-19 illness and COVID-19 related mortality in South Korea: a nationwide cohort study. British Journal of Sports Medicine (2021). 
(4) Ishihara S. et al. Controlled release of H 2 S and NO gases through CO 2-stimulated anion exchange. Nature communications (2020), 11.1: 1-8.  
(5) Kobayashi J. Letter to the editor: Effects of inhaled nitric oxide in COVID‐19‐induced ARDS – Is it worthwhile? Acta Anaesthesiologica Scandinavica (2021), in press. 

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