スポーツマーケティング成功のカギとは?ファンを魅了する方法と秘訣
スポーツが多くの人を惹きつける理由の一つは、その展開が予測できないことにあります。試合の結果が明確ではないからこそ、観客はハラハラしながら熱中し、興奮を覚えるのです。
このようなスポーツの特徴を活用し、企業のブランド価値を向上させる手段がスポーツマーケティングです。
単なる広告手段にとどまらず、スポーツマーケティングは消費者との強い結びつきを築くための効果的な戦略として急速に発展しています。
本記事では、スポーツマーケティング独自の魅力について解説していきます。
スポーツマーケティングの定義とは
マーケティングとは、商品やサービスが売れる仕組みを作り出すことだと言われています。
スポーツマーケティングには、スポーツそのものを対象としたマーケティングと、スポーツを活用したマーケティングという2つの側面があります。
ここでは、後者のスポーツを活用したスポンサーシップについて取り上げます。
スポンサーシップ
スポーツそのもののマーケティングは、例えば球団やクラブが行うマーケティング活動を指します。一方、スポンサーシップは少し意味合いが異なります。
一般的に言われるスポーツマーケティングは、スポーツを活用して企業が商品を売るためや企業のブランディングのために行う活動を指します。多くの人がスポーツマーケティングをこのように理解していると思います。
企業の狙いによって、選手個人との契約、チームとの契約、イベントとの契約など、様々な形態があります。企業側の思惑によって、マーケティングの対象となる商材が変わってきます。
エンドースメントマーケティング
個人と契約する場合、それはエンドースメントマーケティングと呼ばれます。一方で、チームやクラブ、さらにはオリンピックやサッカーワールドカップなどの大会との契約も存在します。
スポーツの大きな特徴の一つは、勝敗が予測できないことです。この不確実性に多くの人々が魅力を感じ、応援する理由の一つとなっています。
映画や演劇、音楽などは、あらかじめ決められたストーリーに沿って進行することが多いですが、スポーツでは勝敗により展開が異なります。
この結果、チームや試合そのものの価値も変動するという点が、他のエンターテイメントや商品とは大きく異なる特徴です。
ある研究者の調査によると、世界全体のマーケティング活動の7割以上がスポーツを活用したものだと言われています。
インフルエンサーやタレントを起用するマーケティング
タレントを起用する手法も似た側面を持っています。インフルエンサーやタレントが商品の効果や魅力を紹介すると、一般の消費者はその商品に対する信頼感や効果を感じやすくなります。
例えば、大谷翔平選手が多くの企業から高く評価される理由は、彼が素晴らしい成績を残すことで、彼の紹介する商品への信頼が一層強まるからです。
タレントの知名度が上がれば、その起用費用も増加し、同時に影響力も高まります。影響力の大きいタレントが商品を手に取ったり紹介したりするだけで、大きなマーケティング効果を発揮するのです。
例えば、昨年のWBC後に大谷選手がある化粧品メーカーと契約し、日焼け後に使う商品をインスタグラムに投稿したところ、その商品はすぐに店頭で売り切れるほどの反響がありました。
したがって、名の知れたタレントが関わることで、商品の信頼性や認知度、そして売れ行きは劇的に向上します。
スポーツマーケティングが急速に発展した背景
スポーツマーケティングが注目される背景には、スポーツそのものが持つ特性が深く関わっています。特に重要なのは、スポーツが「ライブエンターテイメント」として多くの観客を引き込む点です。
インターネットの普及とメディアの進化によるスポーツの広がり
インターネットの普及に伴い、IP放送やBS、CSなど様々なメディアが進化する中で、スポーツをライブで楽しむことが、一層の興奮を観客に与える要因となっています。
このような状況下で、スポーツ選手やアスリートの価値はこれまで以上に高まっています。多様なメディア環境が整っている中で、オリンピックなどの大規模な大会は、アスリートの存在価値を強く証明する場となっています。
例えば、柔道の金メダリストである角田夏実選手の例がわかりやすいです。大会前はあまり知られていなかった彼女が、金メダルを獲得したことで、瞬く間に高い認知度を獲得しました。このような急激な知名度の向上は、スポーツの特性ならではで、他の分野ではあまり見られない現象です。
スポーツが持つ特長として、瞬時に知名度を高める効果や感動の共有が挙げられます。これが、スポーツマーケティングの必要性を強めているのです。
スポーツマーケティング発展の契機はロスオリンピック
スポーツマーケティングが大きく発展するきっかけとなったのは、1984年のロサンゼルスオリンピックです。この大会以降、スポーツの商業化が加速し、マーケティングの中心的な要素として注目されるようになりました。
特に日本において、スポーツマーケティングやマネジメントが広まったのは、Jリーグの誕生が大きな契機となりました。
それ以前は、プロ野球が企業主導のスポーツとして運営されていましたが、Jリーグは地域密着型のプロスポーツとして新しい形を築き上げ、スポーツマーケティングをさらに発展させました。
その後もバスケットボールのBリーグや卓球のTリーグ、ラグビーのリーグワン、バレーボールのVリーグなど、さまざまなプロスポーツリーグが誕生し、これらのリーグにおいてもスポンサーシップが重要な役割を果たしています。
これにより、スポーツ産業とスポーツマーケティングは急速に成長を遂げてきました。
スポーツ賭博とスポーツマーケティングの関係性
一方、スポーツ賭博については、スポーツマーケティングとは少し異なる側面を持っています。日本で合法とされる賭博は、競馬や競輪、競艇などの国が管理するものに限られていますが、Jリーグの発展とともにスポーツくじ(toto)が導入され、スポーツベッティングに近い形態も徐々に認知されています。
日本ではカジノや統合型リゾート(IR)の導入に対する反対意見も根強く、スポーツベッティングの広がりは依然として難しい状況にあります。過去の野球賭博や相撲賭博の不祥事も、スポーツベッティングに対するイメージを悪化させており、合法化への障害となっています。
スポーツベッティングとスポーツマーケティングは異なるものであり、スポーツマーケティングは企業のブランディング戦略に重点を置いた手法です。
「POLUSグループ」と「浦和レッズ」による企業ブランディングの事例
例えば、Jリーグの浦和レッズと長年パートナーシップを結んでいるポラス株式会社の事例が挙げられます。
地域密着型の住宅メーカーであるポラスは、10年以上にわたり浦和レッズのスポンサーを務めており、その結果、企業の認知度や信頼性が大きく向上しました。特に埼玉県内では、企業の競争力が高まり、採用にも良い影響を与えています。
ポラス社は年間約3億円のスポンサー料を支払っていると見られますが、その投資によって企業の成長を実現し、現在では関東エリアでのテレビCM展開にもつながっています。このケースは、スポーツマーケティングが成功した一例として挙げられるでしょう。
スポーツマーケティングの成功と失敗を分けるのは
先ほど紹介した以外にもスポーツマーケティングの成功事例がいくつかあります。
Jリーグ「東京ヴェルディ」に見られる事例
例えば、東京ヴェルディの背中のスポンサーであったMJS(株式会社ミロク情報サービス)という会計ソフトウェア企業があります。
MJSはかつてはそれほど規模が大きくなかったものの、サッカークラブのスポンサーとして知名度を高め、現在ではテレビCMも展開するまでに成長しました。
また、営業活動によってスポンサーシップ契約を獲得した中小企業の例として、東京都足立区にあるお菓子メーカーのショウエイがあります。
ショウエイは、商品を売るというよりも、社員同士の一体感を高める目的でヴェルディのスポンサーとなりました。試合結果に一喜一憂することで、社員の士気向上にもつながり、現在でも10年以上にわたりスポンサーを継続しています。
スポーツマーケティングの成功には中長期的な視点が欠かせない
一方で、失敗事例としては、短期的に結果を求めすぎるケースが挙げられます。例えば、非常に有名なスポーツチームの胸スポンサーに無名の企業がついても、即座に商品の売上が増加したり、企業の認知度が急上昇するわけではありません。
スポンサーシップは、長期的に取り組むことで効果が現れるものです。特に、Jリーグの人気クラブでも1試合の観客数は最大で4万人程度であり、年間のホームゲームは20試合ほどです。
加えて、地上波の中継も少なく、主にDAZNなどの配信サービスで熱心なファンが試合を観る状況です。このため、短期間での大きな効果を期待するのは難しいと言えるでしょう。
中長期的な視点では、チームの成績や選手の日本代表選出などが企業の注目を集める要因となることもあります。短期的な効果を期待するのであれば、スポーツマーケティング以外の方法、例えばテレビCMやインターネット広告を提案する場合もあります。
スタジアムでのプロモーションや自社ウェブサイト、SNSとの連動によるキャンペーンなど、複数のメディアを組み合わせた戦略がより効果的です。
選手・チームが無名の頃からスポンサードする重要性
オリンピック選手を支援する場合も、無名の選手に早い段階からスポンサーシップを提供することは、将来的に大きなリターンを得る可能性があります。
例えば、スポーツメーカーが無名の選手を支援し、その選手が日本代表に選ばれ活躍すれば、その選手が着用する製品が爆発的に売れることもよくあります。
選手の所属契約についても、無名の段階ではそれほど大きな契約金額ではありませんが、選手が有名になることで多くの企業からオファーが寄せられ、所属企業も十分な投資効果を得ることができます。
大手企業は、基本的に無名の選手を起用することが少なく、ブランド価値を守るために知名度の高い選手に高額のスポンサー料を支払う傾向にあります。
例えば、大谷翔平選手に対しては、企業によっては年間で数億円から10億円以上のスポンサー料を支払っていると言われています。これは、「大谷翔平選手のスポンサー企業」としての自社のブランド価値を高める狙いも含まれています。
メジャースポーツとマイナースポーツ/大手企業と中小企業でアプローチは異なる
一方、地方の中小企業は異なるアプローチを取ることが多いです。例えば、スピードスケートの小平奈緒選手は、長野の地元病院に所属していました。
彼女は有名になった後も、多くの大手企業からオファーがあったにも関わらず、無名時代から支えてくれた地元企業への恩義を忘れずにそのまま所属し続けました。
メジャースポーツの選手は、高額な契約を求めてスポンサーを変更することが多い一方、収入の増加や契約の対応も重要です。スポーツ選手のキャリアは限られており、怪我のリスクもあるため、自分の価値が高いうちに適切な報酬を得ることは重要だと考えられます。
日本では金銭的な価値を強調することに対して抵抗があることが多いですが、選手は自分の価値を最大限に活かし、社会にポジティブな影響を与えることが大切です。
スポーツマーケティングを効果的に活用するためには、短期的な効果を求めず、中長期的な視点で戦略を立て、複数のメディアを使ったプロモーション活動を行うことが重要です。
また、チームや選手が自らの価値を高め、企業や自治体に対して魅力的な存在であり続けるためのセルフマネジメントも欠かせません。これにより、さらなる資金が集まり、チームや選手の成長にもつながります。
ターゲット層に合わせた適切なアプローチとは
広告業界で頻繁に活用しているデータの一つに、スポンサーシップによる露出量の評価があります。これは、テレビやインターネット、SNSでの露出を広告換算して、投資額に対してどれだけの効果があったかを確認するための指標です。
年代別にみるプラットフォームの違い
最近では、SNSでの拡散効果がますます重要な要素となっています。簡単な動画や記事がSNSで取り上げられ、多くの人々がシェアすることで、短時間で数百万もの目に触れることがあります。
広告換算に加え、SNSでのシェア数も企業の投資効果を測る上で欠かせない指標となっており、さまざまなメディアを適切に選ぶことが求められています。以前は4大メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)が主流でしたが、現在ではインターネット広告の規模がテレビ広告を上回っています。
ただし、メディアの利用傾向は年代ごとに異なります。例えば、10代や20代の学生層はテレビをほとんど見ず、主にYouTubeやSNSから情報を得ています。
一方で、50代や60代の層にアプローチする場合、依然としてテレビや新聞広告が効果的なことが多いです。そのため、企業はターゲット層の年齢や性別に応じて適切なメディアを選択することが重要です。
スポーツの種類によるターゲット層の変化
また、スポーツの種類によってもターゲット層は変わります。例えば、大相撲やプロ野球は高齢層に支持されている一方で、サッカー、特に日本代表は10代から20代の若い層に人気があります。
企業は、自社がアプローチしたい層に合ったスポーツを選んでスポンサーシップを行う傾向にあります。例えば、若年層にリーチしたい企業の具体例としては、スケートボードの堀米雄斗選手があります。
ナイキジャパンは、若者に支持されるブランドイメージを強化するため、堀米選手を積極的に起用しています。これは、ナイキが10代や若い世代にアピールし、ファッションブランドとしての地位をさらに確立する戦略の一環です。
アーバンスポーツと呼ばれる種目は、競技人口が少なく、メディアでの露出もまだ多くありません。しかし、ナイキは堀米選手やディーフューセン選手をブランドアンバサダーとして起用し、これから影響力を持つ可能性のある若い世代にアプローチすることで、ブランドイメージを高めています。
スポーツの種目によってターゲット層はある程度固定されることが多いです。例えば、ゴルフは若年層にはそれほど人気がないため、松山英樹選手をスポンサーする企業は若者層をターゲットにしているわけではありません。
スポンサーシップを行う企業は、そのスポーツの視聴者層を事前に調査し、ターゲット層に合わせた決定を行っているのです。
まとめ
従来までのスポーツマーケティングがさらに活発化することに加え、スポーツベッティングにも賛成です。新たな産業が生まれ、多くの人がスポーツに関心を持つきっかけになると考えているからです。
例えば、陸上競技の100mや400mリレー、マラソンなどにスポーツベッティングが導入されれば、人々の関心がさらに高まるでしょう。スポーツベッティングの導入は、スポーツ産業全体を大きくする可能性があります。
ただし、現在の日本では法律の問題もあり、競技団体が率先してスポーツベッティングを行うことは難しい状況です。スポーツベッティングで得た資金をスポーツ振興や競技環境の改善、競技団体の発展に活用できれば良いと考えています。
一方で、賭博による自己破産など、負の側面も懸念されています。特に日本では、一攫千金やギャンブルに対してマイナスイメージが強いです。しかし、段階的に導入していけば、スポーツ振興や地域の施設改善など、様々な良い影響も期待できます。
競馬やパチンコなど、既存のギャンブルは長い歴史があるため否定的な見方は少ないですが、新たなスポーツベッティングの導入には慎重な意見も多いです。しかし、サッカーのスポーツベッティングが既存のギャンブル産業よりも人々に悪影響を与えるとは考えられないのです。
佐々木 達也
- 所属:経営学部 マネジメント総合学科
- 職名:教授
- ライフサイエンス/スポーツ科学/スポーツビジネス/スポーツマネジメント
学位
- スポーツ科学 ( 2009年03月 早稲田大学 )