流体力学とはどんな学問?空気や水の流れの秘密

IT・科学
藤田 昌大

流体力学は、液体や気体等の流体の運動や力学的性質を研究する学問です。

このような言葉を聞くと難しく捉えられたり、実生活においてどのように役立つのかイメージしにくいという方も多いでしょう。

しかし、さまざまな分野において流体力学の知見は活かされており、私たちの生活に身近な学問でもあるのです。

本記事では、流体力学とはどういった学問なのか、知見が活かせる主な分野について解説します。

流体力学とは

流体力学とは、液体や気体等の流体の運動を研究する学問です。

流体力学の歴史は古く、紀元前250年頃に発見された「アルキメデスの原理」が初期の流体力学に相当します。

その後、17世紀にはパスカルが静水力学の原理を発見し、18世紀にはベルヌーイが「流体の速度と圧力の関係」(ベルヌーイの定理)を発表しました。

19世紀になると、ナヴィエとストークスによって粘性流体の運動方程式(ナヴィエ‐ストークス方程式)が確立されたことで定量的な解析が可能となり、流体力学は成熟しました。

このように流体力学には長い歴史があり、現在も多くの研究者や技術者により応用が進められています。

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流体力学の適用対象

流体力学は私たちの生活をとりまく様々な分野に適用されています。

航空機・自動車

航空機の翼や自動車のボディ・エンジンなどの設計において、流体力学は欠かすことのできない学問です。

流体力学の知見をもとに機体や車体を設計することで、飛行時や走行時の空気抵抗を最小化でき、運動性能や燃費を最大限まで向上できる可能性があります。

また、乱流の解析は航空機の安全性を向上させるために重要なテーマです。

土木・建築

土木・建築の分野においては、橋や高層ビルなどの大型構造物の安全性を高めるために流体力学の知見が不可欠です。

橋やビルは常に風雨にさらされるため、流体力学に基づき設計を行うことで、台風などによる強風の影響を最小限に抑えることができます。

また、大雨によって水量が増えた際には、ダムや河川の水流制御にも流体力学の知見が応用され、災害リスクの軽減が図られています。

再生可能エネルギー発電

次世代のエネルギーとして注目されている風力や水力は、流体力学が直結する分野のひとつに挙げられるでしょう。

再生可能エネルギーによる発電効率を上げるためには、自然エネルギーをより効率的にタービンへ変換する必要があります。

そこで、たとえば風車のブレード設計では、流体力学に基づき空気の流れを最適化することで発電効率を高めています。

スポーツ

あらゆるスポーツは空気や水の抵抗を受けるため、流体の影響を軽減することによりパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能です。

たとえば、スキーやスケート競技では選手の姿勢に流体力学を応用することで空気抵抗を抑えられるほか、水泳競技では水の抵抗を抑えるフォームをとることによって記録を伸ばせる可能性があります。

感染症・医療

感染症対策や医療の分野では、ウイルス・細菌が飛沫を介して拡散するメカニズムの解析や、血液の流れの研究にも流体力学が用いられています。

たとえば、結核や麻疹といった空気感染力のリスクが高い疾患では、ウイルスが外に漏れ出ないよう陰圧室に隔離しておく必要がありますが、この設計にも流体力学の知見は欠かせません。

天気予報・気候変動

精度の高い気象予測を行ううえでは大気や海洋の流れを解析する必要があり、これには高度な流体力学の知見が不可欠です。

また、中長期的な気候変動の影響を見極めるために、地球規模での流体の解析も行われています。

火山噴火・津波・洪水

災害大国である日本においては、被害を最小限に食い止めるために流体力学の知見が大いに役立てられています。

たとえば、火山噴火に伴う火山灰や火山ガスの拡散シミュレーションや、津波の伝播、水害の予測などに流体力学を応用することで、災害発生時の被害予測や減災対策の計画立案が可能です。

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流体力学の支配方程式

流体力学では流体の密度、速度、圧力、温度等を求めるためにさまざまな方程式が用いられます。

今回は、代表的な「質量保存式」、「ナビエ・ストークス方程式」、「エネルギー保存式」について簡単に解説しましょう。

質量保存式

質量保存式は、その名の通り流体の質量は保存される(質量保存の法則)ことを表した方程式であり、簡単に言えば「物質が突然発生したり、消滅したりすることはない」ということを表しています。

tは時間、ρは密度、Vは速度ベクトル、∇は勾配を表します。

この方程式を用いて流体の収縮や膨張を考慮した圧縮性流体の挙動を解析することができます。

ナビエ・ストークス方程式(運動量保存式)

ナビエ・ストークス方程式は運動量保存式ともよばれます。流体の運動における力のバランスを表す基本方程式で、運動量の時間変化を表します。

ここで Πは応力テンソル、fは単位体積当たりの外力ベクトルで、

ただし、pは圧力、μは流体の粘性係数、Iは単位テンソル、Eは変形速度テンソルです。

エネルギー保存式

エネルギー保存式は流体の運動エネルギーと熱エネルギーが保存されることを表す方程式です。

ここで eは流体の単位質量当たりの全エネルギー、kは熱伝導率、Tは温度を表します。

ドローンの流体力学

災害対策や物流業界の省人化など、さまざまな用途にドローン活用が期待されています。

実際の運用にはさまざまな課題も存在しますが、流体力学の知見を応用することでそれらを解決できる可能性もあります。

プロペラの形状を工夫して騒音を低減

ドローンが飛行する様子を間近で観察すると、思いのほか飛行時の騒音が大きいことを実感します。

ヘリコプターと同様、プロペラが回転する際には翼端渦という空気の流れが生じるため、騒音を完全になくすことはできません。

しかし、流体力学を応用することで低騒音のプロペラ開発に活かしている事例もあります。

具体的には、翼端をなくした8の字型のプロペラや、プロペラを箱で覆うBox翼とよばれるアイデアも研究されています。

トンボの飛行メカニズムを解析して効率的な飛行を追求

ドローンの本格的な社会実装を実現するためには、飛行の安定性をさらに高める必要があります。

トンボは自然界においてトップクラスの飛行機能を有する生物であり、飛行時に翅がどのような動きをしているのか、そのメカニズムを研究することで高性能ドローンの開発につながると期待されています。

これまで以上に安定的な飛行が実現できれば、安全かつ高速に飛行できるドローンが実現できるほか、落下事故の抑制にもつながるでしょう。

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まとめ

流体力学は空気や水といった流動性の高い物体の動きや力学的性質を学ぶ分野であり、私たちの生活にも密接に関わっています。

紀元前から長い歴史の中で研究されてきた流体力学ですが、まだまだ解明されていない内容も多く、今もなお多くの物理学者、工学者が研究に取り組んでいます。

この記事を監修した人

藤田 昌大

  • 所属:城西大学理学部情報数理学科
  • 職名:教授
  • 専門分野:数値流体力学

学位

  • 工学博士 ( 1993年3月   東京大学大学院工学系研究科航空学専攻)

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