若返りの薬は実現間近?注目される成分やメカニズムについて解説

健康・医療
中谷 祥恵

人類にとって老化は永遠のテーマであり、多くの人がいつまでも若々しくありたいと願うものです。

これを実現するために、世界の大学や研究機関では若返り薬の研究が行われています。

現時点で若返り薬とよばれるものは存在するのか、どういった成分が若返りをもたらすのか、最近の研究成果や今後の動向について分かりやすく解説します。

「若返りの薬」とよばれるものの実態

「若返りの薬」と聞くと、飲むだけで肌のシワがなくなりツヤやハリを取り戻し、短期間で見た目が若返っていく、というイメージを抱く方も多いかもしれませんが、実際には現時点でそのような薬はありません。

しかし、老化を遅らせる効果のある薬は存在しており、これがいわゆる「若返りの薬」とよばれています。

ただし、これらの多くは薬機法に則り正式に承認された医薬品ではなく、サプリメントや自費診療での内服薬および点滴という形で提供されています。

医薬品としての正式な承認を受けるためには臨床試験による効果の検証が必要であり、これには多くの時間を要します。

若返り薬はさまざまな機関・企業で研究されていますが、長期的な服用・投与によってどのような影響があるのか、はっきりとした結論が出ていないのが現状です。

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若返り効果が期待される薬品と注目の成分

近年のさまざまな研究で、栄養障害を起こさないバランスで一定のカロリーを制限することによって若返り効果を期待できることが分かってきました。

どのような成分が関係し、どういったプロセスで若返り効果が得られるのかを詳しく解説しましょう。

サーチュイン

サーチュインはヒトを含むさまざまな動物の中に存在するタンパク質の一種で、長寿遺伝子ともよばれています。

これらの働きとして、DNA損傷時の修復促進作用、老化に伴う細胞分裂回数の減少の抑制、ミトコンドリア(細胞のエネルギーを生成するもの)によるエネルギー生成の効率化などがあります。

これらの働きにより、サーチュインは老化を抑制したり、寿命を調節することがわかってきました。ただし、サーチュイン遺伝子はつねに機能しているわけではありません。

最近の研究では、栄養バランスよく、通常時に比べて25%程度のカロリーを制限することでサーチュイン遺伝子が誘導されることが分かってきました。

また、赤ワインなどに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールなど、いくつかの食品成分の摂取が、体内のサーチュイン遺伝子の働きを高めることが報告されています。

ラパマイシン

ラパマイシンは、臓器移植の時の免疫抑制剤や一部のがんに対する抗がん剤として使われているお薬ですが、近年の研究で、ラパマイシンをマウスに適度に摂取させると、寿命を延長させることがわかってきました。

この寿命延長作用は、カロリー制限で寿命が延長されるメカニズムと似ていることがわかってきて、カロリー制限をせずに寿命を延ばせる薬と期待されていますが、ヒトでの効果はまだわかりません。

また、ラパマイシンはオートファジーを誘導・活性化する働きがあります。

ヒトを含む生物の体内ではつねに細胞が生まれ変わっていますが、これを実現するには古くなった細胞を分解したり排除する働きが不可欠です。

これを担っているのがオートファジーとよばれる機能で、いわば体内のリサイクル業者のような働きをします。

すなわち、ラパマイシンは細胞の生まれ変わり=若返り効果を活性化する成分ということになります。

メトホルミン

メトホルミンは糖尿病患者に用いられる代表的な治療薬として長い歴史があります。

肝臓で生成する糖を抑え、インスリンの働きをよくすることで血糖値を下げる効果があります。

血糖値が高い状態が続くと、血中のタンパク質が糖化しAGEsとなり、正常なタンパク質機能が低下するため、老化が促進されることが報告されています。

メトホルミンによって血糖値をコントロールすることで、AGEsが作られることを予防し、老化を抑制する可能性があります。

また、老化すると、オートファジーが潤滑に行われなくなる結果、老廃物が蓄積し、それらが炎症を促進することで老化が進行します。

メトホルミンは、ラパマイシンと同様にオートファジーを誘導することで老化を抑制できる可能性があると考えられています。

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若返り薬に関する最新研究

若返り効果をもたらす成分や薬に関する研究はどこまで進んでいるのでしょうか。最新の研究成果をもとに分かりやすく解説します。

「NMN」の進化系の実用化

NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)とは、ヒトの体内でエネルギー代謝や細胞修復に深く関与するNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という物質の基になる成分です。

上記で述べた長寿遺伝子であるサーチュインは、NADがないと機能しないことがわかりました。

しかし、ヒトは加齢とともにNADのレベルが低下するため、サーチュインも機能しなくなり、これが老化を引き起こす一つの要因と考えられています。

米ワシントン大学およびハーバード大学など複数の大学での研究で、NMNを摂取すると体内でNADに変換されることがわかっています。

また、サーチュインを活性化させると報告されていたレスベラトロールを摂取するよりも安定して体内のサーチュインの機能を高めることがわかってきたため、新たな若返り薬として注目されるようになりました。

老化細胞を除去する薬剤の臨床研究(SGLT2阻害薬)

SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬の一種で、糖を尿と一緒に排出することで血糖値を下げる働きがあります。

最近の研究で、SGLT2阻害薬がカロリー制限状態を模倣することで、寿命を延伸させる可能性が報告されました。

また、老化細胞が体内に蓄積すると炎症や組織機能の低下を引き起こし、さまざまな疾患の原因となりますが、SGLT2阻害薬を投与すると、加齢や肥満に伴い蓄積する老化細胞を除去する可能性が順天堂大学をはじめとした研究グループから報告されました。

現在、糖尿病患者さんの老化に対する影響を調べるための臨床研究が計画されています。

老化関連疾患の予防や治療はもちろんのこと、薬剤によって老化細胞を取り除くことでアンチエイジングにどのような効果がもたらされるのか、研究結果が注目されています。 

科学的リプログラミングによる細胞の若返り

米ハーバード大学およびMITの研究チームは、特定の化合物を用いることで細胞を若返らせる新たな手法を開発しました。

iPS細胞で知られる山中因子は、遺伝子のパターンを若い状態に戻す(リプログラミング)ことで知られています。

今までは、山中因子を発現させるためには遺伝子導入などの方法が使われていました。

しかし、この方法では、細胞に6種類の化合物を投与することで1週間以内に細胞の老化を逆転させ、リプログラミングが可能とされています。

まだ研究は始まったばかりですが、 遺伝子操作を必要とせず、また細胞の老化を抑えるのではなく若い状態に戻すという意味では画期的な手法であり、将来的な実用化が期待されています。

若返り薬のリスクと今後の課題

若返り薬は人々の注目度が高いことから盛んに研究が行われていますが、安全性や長期的な影響についてはまだ未解明の部分が多く、慎重な判断も求められます。

具体的にどういったリスクが考えられるのか、今後の課題についても詳しく解説します。

重篤な副作用の可能性

どのような薬であっても、副作用のリスクがゼロのものは存在しません。

紹介した通り、現在、老化を抑制する医薬品は糖尿病の治療薬として使用されているものが多いため、安易に服用すると低血糖など重篤な副作用を起こすリスクがあります。

また、成分の種類によっては免疫機能が低下し、疾患リスクなどが高まる可能性もあります。

いずれも現時点では長期的な臨床データが不足しているため、今後の大きな研究課題といえます。

製品の品質と安全性

現在、市場には多くのサプリメントやアンチエイジング関連製品が流通していますが、その品質や安全性にはばらつきがあります。

たとえば、今回ご紹介したNMNは日本をはじめとした一部の国では医薬品として承認されておらず、あくまでもサプリメントとして販売されています。

そのため、成分量が表示通りでないものや、不純物を含んでいたりと品質管理が不十分な製品も少なくありません。

一般消費者としてできる対策としては、信頼性の高いメーカーの製品であるかをチェックしたり、GMP認証(適正製造規範:製品の安全性と品質が保たれていることを担保する認証制度)などの品質管理基準を確認することも重要です。

摂取方法によるリスク

若返り薬は摂取方法によって安全性が損なわれる可能性も指摘されています。

たとえば、NMNを点滴で急速に投与した場合において特定の酵素が活性化され、NADが逆に破壊される可能性が近年の研究によって示唆されました。

一般的に点滴は経口摂取と比べて体内への吸収が早く、副作用が出やすい傾向があります。

加えてNMN点滴の安全性についてはまだ研究段階でもあるため、安易に試すのは危険といえるでしょう。

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まとめ

現在、いわゆる「若返り薬」とよばれるものは、老化の進行スピードを抑えるものが主流であり、細胞そのものを若返らせる薬は実用化に至っていません。

しかし、今回ご紹介したように、さまざまな大学・研究機関では若返り薬の研究が進められており、細胞の若返りを実現する夢のような薬が近い将来実用化されるかもしれません。

また、これまでは高価で手の出せなかった薬も大幅にコストが抑えられ、今後は身近な存在になる可能性もあります。

一方、薬の副作用や品質、安全性については臨床研究が不十分なこともあり、今後の重要な研究課題ともいえます。

一般の消費者の立場としてはさまざまなリスクを十分に理解したうえで、安全性を第一に製品を選ぶことが重要といえるでしょう。

この記事を監修した人

中谷 祥恵

  • 所属:薬学部 薬科学科
  • 職名:准教授
  • 研究キーワード:骨粗鬆症、間葉系幹細胞、変形性関節症、軟骨、DNAマイクロアレイ、機能性食品
  • 研究分野:ライフサイエンス / 栄養学、健康科学
         ライフサイエンス / 薬系衛生、生物化学
         ライフサイエンス / 細胞生物学
         ライフサイエンス / 応用生物化学

学位

  • 薬学(2007年03月   城西大学)
  • 薬学(2004年03月   城西大学)
  • 応用生物科学(2002年03月   東京農業大学)

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