人的資源管理で成果を上げる|組織の成功を支える戦略的アプローチ
企業や組織の活動を継続していくうえで、「ヒト・モノ・カネ・情報」は重要な経営資源です。
なかでも「ヒト」は極めて重要であり、優秀な人材を採用したり、育て上げたりすることで企業や組織の成長につながっていきます。
経営資源の観点から、従業員一人ひとりの能力を活かし、経営目標の達成につなげる「人的資源管理」が注目されています。
それには、具体的にどのようなアプローチ、手法があるのでしょうか。人的資源管理の代表的なモデルや、ヒントとなる成功事例をご紹介します。
もくじ
人的資源管理とは?
人的資源管理とは、企業や組織における目標を達成するために、人材を有効的に活用する取り組みや仕組みのことを指します。
英語では「Human Resource Management」ともよばれ、頭文字をとってHRMと表すこともあります。
「人的資源」という言葉が含まれていることからも分かる通り、人材を経営資源のひとつと捉えます。
そして、経営目標などの達成を最終的な目的としていることが、大きな特徴として挙げられます。
企業にとって人的資源管理が重要な理由
企業や組織を運営していくためには、モノや資金といった経営資源が欠かせませんが、人材もそのうちの一つに数えられます。
しかし、近年の日本は少子高齢化が進み、深刻な人手不足に陥っています。
新たな人材を採用するために求人募集をかけても、候補者が集まらないケースも多く、人材確保に苦戦している企業は少なくありません。
企業が事業を継続し、持続的な成長を続けていくためには、限られた人員のなかでも生産性を最大化しなければなりません。
これまで通りの人事戦略では、生き残っていくことは難しいでしょう。
そこで、採用や教育、配置などを見直し、人材を有効的に活用する人的管理資源が求められているのです。
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人的資源管理の代表的な5つのモデル
人的管理資源には5つのモデルがあります。
ミシガンモデル
ミシガンモデルとは、1980年代に米国ミシガン州の大学で生まれた人的管理資源のモデルです。
以下の4つの要素をもとに、企業の経営目標を達成するための人材活用を考え、具体的な戦略に落とし込んで実施します。
- 採用と選抜
- 人材の評価
- 人材の開発
- 報酬
ハーバードモデル
ハーバードモデルとは、1980年代に米国のハーバード大学で生まれた、人的管理資源のモデルです。
以下の4つの要素をもとに経営陣が先導して、人材一人ひとりのスキルアップを図りながら、企業や組織全体の成長につなげるという特徴があります。
- 従業員への影響
- 人的資源のフロー
- 報酬システム
- 職務システム
高業績HRM(AMO理論)
高業績HRM(AMO理論)は、以下の3つの要素をもとに構成されます。
人材一人ひとりの能力・モチベーション・機会の3要素を 向上させることで、モチベーションや組織への帰属意識も高めるモデルです。
これにより組織力の強化や底上げを図れるほか、離職率の低下にも期待でき企業としての競争力を高められます。
- Ability(能力)
- Motivation(モチベーション)
- Opportunity(機会)
高業績HRM(PIRK理論)
高業績HRM(PIRK理論)は、以下の4つの要素をもとに構成されます。
従業員に対する権限の移譲や、情報の共有、公平感のある報酬、知識・ナレッジを提供することで、企業や組織に対する帰属意識を高め人材の定着化を図ることができます。
- Power(権限)
- Information(情報)
- Reward(報酬)
- Knowledge(知識)
タレントマネジメント
まず、従業員の年齢や学歴、住所、職歴、所属部署といった基本情報、個人がもっているスキルや特技、経験などの情報を一元的に管理します。
それらを全社横断的な人材配置や、教育などに活かします。このことを、タレントマネジメントと言います。
一人ひとりの情報を横断的に緻密に管理することにより、適材適所の人材配置が可能になります。
また、個人が苦手とする分野や弱点を教育や研修によって強化し、スキルアップや能力向上に役立てることができます。
人的資源管理がモチベーションに与える影響とは
人的管理資源は、人材を有効的に活用することで、企業や組織の目標達成につなげるというのが最終目的です。
しかし、上記の5つのモデルのなかでもご紹介したように、さまざまな取り組みを実施する過程のなかで、従業員のモチベーションが向上していくメリットも期待できます。
たとえば、高業績HRM(PIRK理論)では従業員に対して適切に権限を移譲すること、情報の共有や適正な報酬などによって仕事のやりがいを感じられるようになります。
すると、モチベーションの向上が期待できるでしょう。
従業員一人ひとりが仕事にやりがいを感じ、高いモチベーションのなかで業務を遂行できれば、組織全体の生産性向上にもつながっていきます。
人的資源管理を成功させている事例
人的管理資源を実施している企業や団体の中で、高い成果を収めている成功例をいくつかご紹介しましょう。
大手製薬会社:ミシガンモデルでの積極的な人材採用・登用
大手製薬会社では、グローバル化が進む世界で競争力を高めるために、国籍に関係なく優秀な人材確保に取り組んでいます。
業績に連動した人事評価によって透明性を高め、社内公募制度も積極的に活用し、優秀な人材の抜擢を推進。
これらの取り組みによって、従業員一人ひとりの能力を最大化し、企業としての競争力を高めることに成功しています。
大手メーカー:高業績HRM(PIRK理論)での次世代リーダー育成
医療機器の製造を手掛ける大手メーカーでは、グローバルリーダーとなり得る人材を育成するために、人材マネジメントに関する権限を海外拠点へ移譲しています。
そして、エリアの特性を考慮した人材採用や、人材の登用につなげています。
また、物理的に距離が離れていても従業員の情報を詳細に共有できるよう、人事情報システムを導入し、適材適所の人材配置を実現しています。
大手自動車メーカー:タレントマネジメントの導入
日本を代表する大手自動車メーカーでは、グローバル戦略を実現するための一手として、タレントマネジメントを導入しました。
近年、タレントマネジメントを導入する企業は増えています。
このメーカーは2002年という早いタイミングで他社に先駆けて導入しており、若手人材を中心に次世代の経営を担う人材発掘に役立てています。
具体的には、「入社後3年を目処にビジネスリーダー候補の発掘」「入社5年目以降にビジネスリーダー候補からの選抜および育成」
40歳代を目処に、ビジネスリーダーのポジションとして着任できるような育成の仕組み・体系を確立しています。
まとめ|人的資源管理が生産性の向上に好影響を与える
少子高齢化が加速し、今後さらに人手不足が深刻化する中で、限られた人材で企業の業績を安定化させ成長を続けていくためには、人的資源管理が重要な取り組みといえます。
採用や評価、教育、報酬といった基礎的な項目をあらためて見直すことで、従業員一人ひとりのモチベーションも向上し、生産性にも好影響を与えると期待できるでしょう。
人的資源管理に積極的に取り組み、成功させている企業も多く存在することから、これらを参考に自社でできる取り組みを考えていきましょう。
大薗 陽子
- 所属:現代政策学部 社会経済システム学科
- 研究分野:行動経済学 / 産業心理学 / 人的資源管理論
- 学位:博士(学術) ( 2010年03月 慶應義塾大学 )
- 城西大学 現代政策学部 客員准教授(2012年04月 - 2017年03月)
- 城西大学 現代政策学部 准教授(2017年04月 - 現在)