ルソーの理想社会論|社会契約論とエミールから読み解く

地域・社会
淵田 仁

近代社会に影響を与えた偉人は数多く存在しますが、政治や教育など広い分野で活躍したのがフランスの哲学者、ジャン=ジャック・ルソーです。

歴史の教科書にも登場するルソーとはどのような人物であったのかをご紹介するとともに、代表的な著作『社会契約論』や『エミール』を読み解きながら、ルソーが掲げた理想社会について詳しく解説します。

ジャン=ジャック・ルソーとは?

ジャン=ジャック・ルソー(1712年6月28日−1778年7月2日)は、18世紀におけるフランスの哲学者、政治思想家、作家であり、フランス革命や現代の政治哲学に多大な影響を与えた人物の一人です。

スイスのジュネーヴで生まれたルソーは、43歳のときに『人間不平等起源論』を出版しました。

この本では人間社会が成立する以前を自然状態と定義し、その後に生まれた社会状態との違いを強調したうえで、文明化が人間の不平等を生み出したことを主張しています。

また、50歳になるとルソーの著書の中でももっとも有名な『社会契約論』や『エミール』なども執筆し、社会哲学や政治哲学、教育などさまざまな分野に影響を及ぼすことになりました。

250年以上前に書かれた本であるため、一見すると非常に古典的な内容に捉えられることも多いですが、貧富の格差が広がり続けている現代においては自由と平等を考えるうえでのヒントも多いことから、ルソーの著書は今もなお研究が続いています。

『社会契約論』から読み解くルソーの社会観

ルソーが理想として掲げた社会とはどういったものなのか、代表的な著作『社会契約論』を読み解くことでその全貌が見えてきます。

社会契約の概念とその重要性

人類の歴史を振り返ると、現在のような文明が発達し人間社会が形成される以前は弱肉強食の時代であり、法や権力などによって支配されることもありませんでした。

そのような意味においては平等であり、自由な時代であったともいえるでしょう。このように社会に支配されない状態のことをルソーは自然状態と定義しました。

その後、農耕や工業などの技術が発達し文明化が進んでくると、その過程において不平等が生まれるようになりました。

そこで、ルソーは社会の秩序と自由を確保するためには、極端な不平等を克服する必要があると考え、社会契約という概念を提唱しました。

社会契約とは、個人が自分の権利と自由を社会の共同体に譲渡し、全員が共通の利益を追求するための合意です。

ルソーは社会契約により、個人の自由は守られ正当な政治体制が成立すると考えました。

自由と平等への志向

ルソーが提唱した社会契約論の大きな柱は「自由」と「平等」です。すなわち、個人の自由を尊重しつつ、全員が平等に扱われる社会をルソーは目指しました。

自由とは、個人が他者によって支配を受けない状態のことを指し、平等とは法の下での平等や機会の平等を指します。

文明の発達により人々が私有財産を持つと、貧富の差が拡大し暴動などが発生し社会秩序を維持することが難しくなります。

そこで、秩序を守るためには政治によって法を作りますが、既得権益者が政治に関わることで富者にとって有利な法ばかりが作られ、さらに貧富の差は拡大していきました。

このような専制政治を打開するために、社会契約によって人々は自分たちの自由を保ちながら、平等な社会を築くことができるとルソーは信じていました。

一般意思と主権の理論

ルソーが掲げた社会契約論の中核には「一般意思」という概念があります。

一般意思とは、社会全体における共通の利益を追求する意思のことであり、個人の私的な利益とは異なります。

ルソーは、社会契約は一般意思に基づくことが大前提であり、全ての国民・市民が一般意志の形成に参画することが重要であると考えました。

一般意思によって形成された法やルールこそが自由と平等を守るものであり、それに従うことが真の自由であるとしました。

啓蒙思想との関連性

ルソーの社会契約論をはじめとした思想は啓蒙時代の影響を強く受けています。

啓蒙思想とは18世紀にフランスを中心としたヨーロッパで広まった思想のひとつで、それまでの封建的社会を批判し、個人の理性を重んじながら人間性の解放や自由を目指すものでした。

ルソーは教育や政治改革を通じて、より良い社会を築くことができると考えました。

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『エミール』に見るルソーの教育観

冒頭でもご紹介したルソーの代表作『エミール』に著されている考え方は、現代の教育現場においても広く活用されています。

ルソーは本著の中でどういった教育観を提唱しているのでしょうか。

子どもの発見

ルソーは子どもを「小さな大人」としてではなく、子どもとして捉えることを提唱しました。

子育てをする過程において、たとえば子どもに対して「大人しくできない」「落ち着きがない」あるいは「勉強ができない」とさまざまな悩みを抱える親は多いものです。

ときには「なぜこんな簡単なことができないのか?」と苛立つこともあるでしょう。

しかし、これは親が子どもに対して「小さな大人」と認識していることで起こり得る感情です。

すなわち、「なぜこんな簡単なことができないのか?」という感情の根源には、「大人にとっては簡単なこと」という考えがあるということです。

しかし、子どもは固有のペースで発達し、その過程で大人とは異なる視点や感覚を持っています。

ルソーは子どもが自然に成長しながら、自己を発見する過程を尊重することが重要であると主張しました。

消極的教育

『エミール』の中で子どもの発見と並んで重要な概念とされているのが「消極的教育」です。

詰め込み教育のような直接的な知識の教え込みを行う教育ではなく、子ども自身が経験を通じて学ぶことを促す教育方法のことを消極的教育といいます。

ルソーは消極的教育を実践することで、子どもは自ら考える力や問題解決能力を自然に身につけることができると紹介しました。

また、消極的教育は子どもの自然な好奇心を尊重し、学ぶ楽しさも知ることができます。

これにより、子どもが自主的に学ぶ意欲を高められるほか、学習内容そのものの深い理解にもつながります。

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ルソーの思想が問うもの

『社会契約論』をはじめとした著書には、ルソーが目指した理想的な社会や思想が数多く著されていますが、現代社会に生きる私たちに対してどのようなことが問われているのでしょうか。

また、今だからこそルソーの思想を学ぶことでどういった発見があるのでしょうか。

人間の自由と本性

現代社会にはさまざまな法やルール、規範があり、それらを守っていかなくてはなりません。

しかし、人間は本来自由であり、誰からも束縛されることなく自分自身の欲求に従って行動できる動物です。

これは当たり前のことのように感じられますが、ルソーの社会契約論ではあらためて気づかせてくれます。

自然状態と文明社会のギャップ

文明社会が発展した現在では、法律や社会規範が個人の自由を制約することも多く、ときには不平等であると感じることもあるでしょう。

人間が自然状態から文明社会へと移行する過程で、本来の自由と平等が失われたことは紛れもない事実です。

しかし、現代社会を生きる私たちが自然状態に戻ることは不可能でしょう。

自然状態と文明社会のギャップを埋めるためにも、社会契約の概念を理解しておくことは重要です。

憐みの心と人間性

ルソーは、人間の本性には「憐みの心」が含まれていると主張しました。

これは、他人の苦しみや喜びに共感・共鳴する能力のことであり、自然状態の人間においては自然に現れるものです。

また、憐れみの心は道徳や倫理の基盤にもなり得るものであり、現在のような豊かな文明社会を維持していくためには無くしてはならない要素といえるでしょう。

社会契約による理想社会の実現可能性

ルソーの社会契約論は、理想的な社会を構築するための基盤として提唱されました。

全ての人々は法の下に平等であり、政治は一般意志である共同の利益を追求するために行われなくてはなりません。

しかし、実際には現代においてもそのような理想的な社会が実現できているとはいえず、腐敗政治や貧富の格差は拡大しています。

文明が発達し便利な世の中になったからこそ、いま一度社会契約の基本に立ち返り、理想社会を実現するために必要なことを考えなければならないことを教えてくれます。

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まとめ

ルソーは政治や教育、文学といった幅広い分野で活躍してきた人物であり、彼の遺した著作の数々は今もなお社会全体に大きな影響を与えています。

普遍的でありふれた内容と感じる方もいるかもしれませんが、私たちの身近な生活や現代社会に置き換えてみたり、少し見方を変えてみるだけでも新たな発見やヒントを得られるかもしれません。

現在では、ルソーの思想をわかりやすい表現で著した書籍やマンガなども発刊されているため、入門編としてこれらを読んでみるのもおすすめです。

この記事を書いた人

淵田 仁

  • 所属:現代政策学部 社会経済システム学科
  • 職名:准教授
  • 研究分野:人文・社会 / 哲学、倫理学
         人文・社会 / 思想史
         人文・社会 / 文学一般

学位

  • 博士(社会学) ( 2017年12月   一橋大学 )
  • Master2 ( 2014年12月   グルノーブル第三大学(フランス) )
  • 修士(社会学) ( 2009年03月   一橋大学 )
  • 経済学学士 ( 2007年03月   横浜市立大学 )

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