地域社会の現状と問題点をわかりやすく解説|地域創生の解決策は?
もくじ
「地方創生」が政策課題となって、まもなく10年になろうとしています。
地域社会における人口の減少と経済の縮小を食い止めようと、国や地方自治体がさまざまな取り組みを進めています。
地域社会の再生に関しては、もちろん地方創生という政策課題が注目される前から、地域活性化、まちおこし、地域振興などとして、各市町村をはじめとする自治体でもさまざまな取り組みがされていましたが、「地方創生」という政策により、今まで以上に日本全体で地域社会の問題が捉えられるようになってきていると言えます。
10年が経過して、今、地域の課題はどのようになっているのでしょうか。
ここで、地域社会の抱える課題を整理してみましょう。
地域社会で起きていること
地域社会と一口で言っても、それぞれの地域によって抱える問題は異なります。
ただ一方で、最大公約数のように、共通に見える課題もあります。ここでは、その共通項について整理してみたいと思います。
人口減少
これは日本全体の課題と言えますが、人口が減少し続けていることが最初の課題としてあります。日本の出生数・出生率は、1970年代半ばから長期的に減少傾向にあります。2022年6月に発表された「令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、2021年の合計特殊出生率は1.30でした。2020年の出生数は、84万835人まで減少しています。
今後の予測としても、2070(令和52)年の日本の総人口が、最も実現性の高いとされるケースで8700万人まで減るとの「将来推計人口」を、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が4月26日に公表しています。
高齢人口も減少
東京や大都市圏では、「高齢人口が増加して、年少・現役人口が減少」している状況ですが、地方では「年少・現役人口だけでなく、高齢人口も減少」している地域も多く出てきています。
都市への人口移動(若者の流出)
地方の人口を減らしている要因となっているのは、出生数の減少だけではありません。若者を中心に、地方から都市への人口移動が続いているのです。特に、東京圏への移動は、大卒後就職時、大学進学時の転入が大半を占めていることからも、若者の地方からの流出が顕著となっていることがわかります。
以上のように、人口減少は日本全体の課題ですが、地方こそその減少ペースが早く、また特に若者の流出が問題になっているのです。
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人口減少が地域社会に与える影響
では、このような現状が、地域社会にどのようなマイナスの影響を与えているのかをみていきましょう。
住宅需要の減少と空き家の増加
人口が減ると、住宅需要が減少します。需要が減少すれば、地価も下落します。また、住民を失った住宅は空き家となり、管理が行き届かなければその住宅は老朽化し崩壊します。地域に空き家が増えることは、治安上も好ましくありません。地域のコミュニティの崩壊にもつながります。
交通需要の減少と減便・路線の廃止
人口が減ると、交通需要も減少します。交通機関の客足が遠のけば、採算が悪化するため、供給量も減少せざるを得ません。需要が限界を超えて低下すると、地域社会を繋ぐバスなどの交通網の維持が難しくなります。不採算路線の廃止などが必要となってきます。事業主体が撤退してしまうケースもあります。
交通網が縮小してしまうと、その地域に住み続けることが困難になってしまい、結果的にその地域を離れて都市部に流出してしまう場合もあります。また、特に高齢者は、公共交通機関を利用できないと、生活が孤立してしまうおそれも出てきます。
人手不足
若者の都会への流出は、地元産業の継承や新しい産業の創出を困難にします。結果的に、新しい就業機会を求めて都市部への転出を希望する人も多くなり、地方の人口がますます減少してしまいます。
コミュニティの希薄化
人口減少により消費需要が減少すれば、地元の商店や飲食店も廃業に追い込まれる場合も見られます。商店街がなくなれば、買い物の利便性が低下するだけでなく、住民同士の交流の場も失われてしまいます。地域のお祭りや伝統の継承が難しくなる場合もあります。
社会的孤立
地域コミュニティの希薄化は、地域で暮らす人々を孤立化させることがあります。例えば、子育ての悩みを抱えたまま誰にも相談できずに若い父親や母親が孤立したり、社会的なサービスを十分に受けられないまま高齢者が孤立したりする場合があります。
以上のようなマイナス影響は、負のスパイラルとなって、地域の問題を加速させているのです。
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地域・地方が注目される背景
このような負のスパイラルを食い止めて、地域社会を再生させようということが、地域・地方が注目されている背景にあります。
ただ、より積極的に、地域・地方を捉えていこうという動きもあります。
代表的なものとして、ワーケーションが挙げられます。ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語です。都市部の職場から離れて、Web環境などを活用しながら、リゾート地や観光地で休暇をとりつつ働くことです。コロナ禍をきっかけに働き方を見直す動きが高まり、都市部から地方へ移住する人の流れも生まれています。
地域・地方には魅力が多く残っていることもあり、こうした資源を生かそうという点でも、地域・地方が注目されている側面もあるのです。
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アートの力で地域創生
負のスパイラルを食い止めるだけでなく、さらに地方の魅力を広めようとする試みの中で、アートの力を活かそうとする動きも注目されています。
アートは、日常のものを非日常の視点で見つめ直すことで、その地域の新しい魅力を発見することに役立つことがあります。また、年齢や性別、肩書きに関係なく、誰もが等しくアートという視点だけを共有して地域の課題に取り組めることから、地域に自由でフラットな空間を生み出すこともできます。そうしたアートの魅力から、アートが地域創生の際に活用されているのです。
アートの活用には、例えば北海道赤平市の「赤平アートプロジェクト」が挙げられます。
北海道・空知地域は、最盛期であった1960年代には約110もの炭鉱、約1,750万トンの規模を誇る国内最大の産炭地として、北海道開拓や日本の近代化を支えてきましたが、炭鉱が閉鎖されてからは、人口の急減に悩まされた地域でした。そこで赤平市は、その炭鉱遺産に寄り添いながら、圧倒的な場の魅力や歴史的背景などの「炭鉱の記憶」をアートの魅力で引き出そうというプロジェクトを立ち上げました。地域住民と外部の応援団が一体となって、地域の観光資源を掘り起こすことに成功しました。
学生時代に大切なこと
今後、地域社会の課題に対して、どのように関わり、どのように取り組めばよいのでしょうか。特に、学生時代にすべきことについて整理しておきましょう。
地域のことを知る
地域に課題があることをまず知ること、そしてその背景を知ることです。
東京などの都市圏で暮らしていると、なかなか地域の課題が見えてこないこともあります。ただ、大学を卒業して都市圏を離れて暮らし始めると、地域の課題には否応なく直面することになるでしょう。また、都市圏で暮らし続けていても、今後は地域の課題と同じ課題が、都市圏でも見受けられるようになるかもしれません。
そうした意味でも、学生のうちに、誰もが地域の課題について一定の理解を持っていることは大切になります。
あわてて行動を起こすのではなくても、まずは現状を少しでも認識しておくことが大事になるのだと考えましょう。
一歩前に踏み出す勇気を持つ
次に大切になるのは、知らない人に声をかけたり、新しいことを始めてみたりなど、失敗を恐れずに踏み出す勇気を持つことです。
地域の課題は、地域の人々の交流なしでは改善や解決することはできません。学生時代に必要なことは、知らない人に声をかける勇気や、失敗を恐れない心を身につけることです。その勇気が備わっていれば、どんな困難な課題に対しても、みんなで協力して課題に取り組んで行くことができるでしょう。
学生時代にいろいろな人と付き合うこと、協力して何かを成し遂げることを経験しておくと、将来、地域の課題に取り組もうとしたときに、その経験が生きるはずです。
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城西大学・城西短期大学で学べる「地域連携」
城西大学では、現代政策学部、経営学部、経営学部そのそれぞれの学部で、地域に関することが学べます。
地域の課題に取り組んでいるゼミナールもたくさんあります。また、「地域イノベーション」や「地域連携」などの演習・講義もあり、学生時代に知識だけでなく地域との関わりを実際に体験することもできます。
短期大学でも、「地域連携」という授業があり、近隣の商店と提携して、地域の課題に対して取り組み、学ぶことができます。ここではその一例を紹介します。
「地域連携」(短期大学)
この授業は、大学の近所にあるベーカリーと提携して、新しいパンのデザインを通して、地域の課題に取り組もうとする授業です。地域の人口構成を調べて、どのようなパンをデザインすればこの地域で受け入れられるだろうか、などと考えることで、地域のことを少しずつ理解します。また、地域を調査する過程で、見知らぬ人にインタビューなどすることで、前に踏み出す勇気も身につけることができます。
まとめ
日本で大きく注目されている地域の課題の概要と、そうした課題に取り組むために学生時代にすべきことを、以上のように駆け足で見てきました。
地方創生に関わるためにも、学生時代に、ぜひ、小さくても確実な一歩を踏み出してください。
城西大学・短期大学は、そのために学ぶ機会をさまざまなメニューを用意してみなさんを待っています。
三國 信夫
・城西大学 城西短期大学 ビジネス総合学科 准教授
・修士(芸術) ( 2022年03月 京都造形芸術大学 )
・文学士(フランス語フランス文学) ( 1995年03月 東京大学 )