高齢者社会が迎える2025年問題を解説!どんな政策をすべき?
日本は世界のなかでも有数の長寿国として知られていますが、その一方で子どもの数が減少し続けています。今後、これまで以上の高齢者社会を迎えることになりますが、どのような政策が必要なのでしょうか。
「2025年問題」とよばれるターニングポイントも含めて詳しく解説していきます。
もくじ
高齢者社会の現状
高齢者社会とは、総人口に占める高齢者の割合が高い社会のことを指します。
そもそも「高齢者」に明確な定義はなく、何歳から高齢者にあたるのかは世の中の変化や個人の価値観によって変わります。
日本では戦後から高度経済成長期を経て社会が安定化してきたこともあり、徐々に平均寿命が伸びてきました。このような社会情勢の変化から、現在では政府や公的機関は65歳以上を高齢者と定義するようになったのです。
内閣府が公表している「令和4年版高齢社会白書」によると、令和3年10月時点において65歳以上の人口が3,621万人であり、総人口に占める割合は28.9%に達していることがわかっています。
戦後間もない1950年代はわずか5%未満であった高齢者の比率ですが、1990年代に入ると14%、そして2010年代からは21%を超えるようになりました。
このようなデータからも、日本は着実に高齢者社会へと移行していることがわかります。
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日本が高齢者社会になった原因
日本は世界のなかでも稀に見るほどの高齢者社会の国といえます。なぜ、戦後から現代に至るまでの短期間で高齢者社会となったのか、考えられるいくつかの原因を紹介しましょう。
医療制度・生活保障制度の充実
日本では国民皆保険制度や年金制度が整備され、老後に安心して暮らせる社会づくりが進められてきました。
子どもから大人まで原則として医療費の自己負担額は3割に抑えられ、病気やケガのリスクが高まる高齢者ともなれば1割または2割の自己負担額で治療を受けられます。
また、年金制度のおかげで老後は働かなくても一定の収入を得られるため、ある程度の生活が保障されています。
健康志向の高まり
高齢者社会の直接的な原因を一言で表すとすれば、国民の平均寿命が伸びていることが挙げられます。
いつまでも元気で豊かな人生を送りたいと願うのは当然のことであり、そのために健康に気を使う人は少なくありません。
バランスのとれた食生活や適度な運動など、健康志向が高まっていることも高齢者社会の一因といえるでしょう。
少子化の進行
平均寿命が伸びたとしても、その分新たに生まれる子どもの数が多ければ人口構成比は均衡がとれ、高齢者社会になることはありません。
しかし、日本では経済的な問題や結婚そのものに対する価値観の変化などにより、子どもを産まない夫婦やカップルも少なくありません。また、子育てに対する余裕がなく、2人目、3人目を産む夫婦が少ないことも少子化の進行に拍車をかけ、結果として高齢者社会につながっていると考えられます。
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高齢者社会の問題点や課題
高齢者社会は深刻な社会問題として捉えられることが多くあります。具体的にどのようなことが問題として考えられるのでしょうか。
福祉・介護を担う人材不足
年齢を重ねていくと身体の不調をきたすことも多く、福祉施設や介護施設のお世話になることも少なくありません。しかし、少子化によって現役世代が少なくなると、福祉や介護を担う人材も減り、施設に入居したくても入居できないといった問題が生じます。
社会保障制度の崩壊
高齢者の生活を支えるために欠かせないのが年金制度です。そもそも年金とは、過去に自分が納めた保険料によって賄われるものではなく、現役世代が納めた保険料を原資として支給されています。
そのため、少子化によって現役世代が減少し、高齢者の割合が増えると原資が不足し年金の支給額も減っていく可能性が高いのです。
経済成長の鈍化
日本は戦後の焼け野原から高度経済成長期を経て奇跡的な復活を遂げ、世界のなかでトップ3に入るほどの経済大国となりました。
しかし、現役世代が減少し高齢者の割合が増えていくと、経済活動を支える人材が不足し経済成長が鈍化する可能性が高いのです。
その結果、これまでのような豊かな生活が維持できるとは限らず、高齢者を中心に多くの国民が貧困化していくリスクがあります。
高齢者社会にメリットはある?
高齢者社会は多くの問題点やデメリットがフィーチャーされがちですが、視点を変えてみたときにメリットとして考えられることはないのでしょうか。
医療・介護産業の活性化
特に大きなメリットとして考えられるのは、医療や介護分野における経済活性化です。
現在の産業構造や働き方のままでは人材不足に陥るリスクがある反面、それらを解消するためにテクノロジーの活用が求められるようになります。
人の手に頼らない新たな医療・介護産業の構造へ変化していくと、福祉や介護に携わる人材不足の解消と経済成長を同時に実現できる可能性があります。
新たな雇用・働き方の創出
高齢者社会によって寿命が伸びていくと、従来のように60歳や65歳で現役を引退するという働き方ではなく、70歳や80歳になっても働ける健康な人が増えてきます。
現役世代並みの生産性を維持することは難しくても、高齢者だからこそ持っている経験やスキルを活かし、若年層の指導や教育に貢献できる可能性もあるでしょう。
2025年問題とは?
高齢者社会を考えるうえで話題に上ることが多いのが、「2025年問題」とよばれるものです。これは、2025年に日本人の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になり、上記で挙げたようなさまざまな社会問題が深刻化するという問題です。
特に福祉・介護の分野では38万人もの人材が不足するという試算もあり、人材確保は当面の課題とされています。
また、その他の業界においても労働力不足は深刻な問題であり、2025年には多くの中小企業が後継者が不在となることから650万人もの雇用に影響を及ぼすとされているのです。
それにともない、医療保険や年金といった社会保障費が増大し、現役世代に対してさらなる負担増が予想されます。
高齢者社会で有効な政策や対策方法は?
高齢者社会は深刻な社会問題でもありますが、日本では今後どのような政策や対策が求められるのでしょうか。いくつかの分野に分けて有効な政策・対策の一例を紹介しましょう。
就業・雇用
就業や雇用の分野では、従来の定年制の見直しが重点的な対策として挙げられます。実際に定年制を廃止したり、従来の60歳から65歳、70歳へと定年を引き上げている企業も少なくありません。
福祉・介護・医療
福祉や介護、医療の分野では、人材確保の促進や介護保険制度を持続的に運用できるような政策が求められます。また、自身の家族の介護を希望する現役世代が、介護と仕事を両立できるよう、介護休暇の拡充なども進められています。
生活環境
生活環境の分野では、地域社会の治安維持や犯罪の防止、交通安全対策などが求められます。特に現在でも高齢者を狙った詐欺行為が社会問題化していることから、このような被害から守るための政策や防犯対策が求められます。
地域コミュニティ
高齢化が進むと一人暮らしのお年寄りも増え、社会から孤立していくケースも少なくありません。そのため、地域コミュニティを活性化し近隣住民同士で交流できる機会や場を積極的に設けることが重要となります。
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城西大学の教育の特徴
今後さらに高齢者社会へ移行していくと、福祉や医療、さらには社会そのもののあり方も見直しが求められるでしょう。高齢者だけの問題ではなく、社会を支える現役世代の若年層にとっても社会保険の負担が増大するなどの懸念が生じることから、全世代を当事者として考え、有効な政策・対策を講じていく必要があります。
城西大学では現代政策学部を設置しており、高い倫理観をもち社会貢献ができる人材の育成を行っています。グローバル化が進む社会のなかで日本が生き残っていくための競争力を身につけるとともに、地域社会の問題や課題を解消していくために必要な知識やスキルを身につけることができます。
カリキュラムの内容は政策学や法律、社会学、心理学、経営学など多岐にわたり、教員免許やFP技能士、社労士、簿記検定、ホームヘルパー、サービス介助士といった専門的な資格取得に向けたサポートも受けられます。
まとめ
2025年以降には今以上の高齢者社会が到来すると予想されており、さらなる人手不足や社会保険料の負担増、経済成長の低迷に陥る可能性があります。
戦後の高度経済成長を経て実現した豊かな暮らしを次世代に引き継いでいくためには、就業や福祉、介護、生活環境や地域コミュニティといったさまざまな分野へ向けた政策や具体的な対策が求められます。
決して簡単な社会課題とはいえませんが、将来はこれらを解決するために貢献していきたいという人は、政策学や法律、社会学など幅広い分野の知識を身につけることが大切です。
于 洋 (ウ ヨウ)
博士(経済学) ( 2006年10月 早稲田大学 )
研究分野:人文・社会 / 公共経済、労働経済 / 財政学、社会保障論
城西大学 副学長(2020年04月 - 現在)