私達が安全で安心な暮らしを送るために必要な「衣・食・住」。その中のひとつ「食」について、2005年6月「食育基本法」の成立を機に、健康食品ブームや、健康レシピが多く目につくようになりました。また、昨年12月には「和食」が世界文化遺産に認定されるなど、国内外における日本食への関心は高まっています。
天ぷら・蕎麦・寿司といった現在親しまれている和食のほとんどは江戸時代に始まったとされ、豊富な調味料や食材とともに、江戸時代の食生活は豊かになりました。人々は健康に対する意識も持つようになり、豆腐、蒟蒻、大根などが健康食材として取り上げられ、それらを使った料理本なども多く出版されました。
豊かになる江戸の食に、儒学者貝原益軒(かいばら えきけん)は『養生訓』の中で「節度のある飲食こそ基本」、「腹八分目」を勧めました。また、本草学の流行により、医学・薬学が大きく進歩し、薬による病気療法も広く行われるようになる中で、薬よりも日々の生活の中で養生を続けることこそが健康維持に役立つとし、食による食養生も説いています。
このたびの展覧会では、「江戸の食」をテーマに、浮世絵や料理本、江戸の料理を再現した料理標本を通して江戸時代の食文化をご紹介します。また、当時としては珍しい人の体内での食べ物の様子を描いた浮世絵も展示いたします。併せて『養生訓』もご覧いただくことで、現代の食育の根底ともなった江戸の人々の「食」と「健康」への取り組みをお楽しみいただきます。昔も今も変わらない、人々と「食」との関係を改めて考える機会となれば幸いです。