近世の旅と言えば、伊勢参宮を頂点とする寺社参詣を中心に言いますが、西国巡礼や四国巡礼など一部を除くと、寺社までの行程で立ち寄った土地で見られる名勝や旧跡、さらには飲食や買い物といった娯楽までも堪能するような物見遊山的要素を多分に含んだものでもありました。 本展では、そういった周遊観光地として人々に親しまれた房総への旅をご案内します。
房総半島は、太平洋と東京湾に接し、風光明媚な景勝地や神社仏閣、名所旧跡に恵まれ、古来より多くの人を魅了してきました。交通網の整備などによって、江戸時代後期に旅行ブームが起こり、遠方まで足を運べない人にとって江戸から近い房総は恰好の観光地となります。 名所記や図会といったガイドブックの役割を担っていた版本のほか、房総を旅した歌川広重の作品にも見られるように、房総の名所を題材とした浮世絵も多く刊行されました。
本展では、当時に一大観光地となった銚子をはじめ、市川鴻之台や保田海岸などの景勝地、成田山新勝寺や真間弘法寺といった名所旧跡など、様々な房総を描いた浮世絵版画をご紹介します。 新幹線や飛行機で目的地へと簡単に行ける現代の旅とは違い、徒歩や時には船による移動でゆっくりと時間を掛ける江戸時代の旅では、目的地までの道中を楽しむことも旅の醍醐味であったことでしょう。 今回ご紹介する浮世絵を通して、江戸の人々が巡った房総を少しでも感じ取っていただければ幸いです。