この度「さいたまの歴史と文化に触れる 越生うちわ―現代に残る伝統と匠の技―」展を開催する運びとなりました。
越生うちわ(渋団扇)は、かつて越生を代表する特産品としてその名が知られ、「坂戸の釈迦がつぶれると、越生の渋団扇が売れる」という坂戸の諺や、昭和初期の小唄でも歌われるほど有名な団扇でした。
その始まりは明らかになっていませんが、明治44年(1911)の『埼玉新報』の記事に「団扇製造高は毎年二百四十万本内外の産出額」という記述があり、また大正元年(1912)刊行の『入間郡村誌』にも「渋団扇の産出また少なからず」とあることから、明治後半~大正・昭和初期頃に隆盛を迎えたものと考えられています。しかし、戦後の高度経済成長期に入り、ガス器具や電化製品が普及して、扇風機やエアコンが登場すると、次第に受注は減り、さらには技術者の高齢化も重なって、全盛期50軒ほどあった工房も昭和40年代前半には2、3軒まで減少、越生うちわはその存在すら危ぶまれるようになります。
本展覧会では、越生うちわの歴史を、写真パネルを中心に改めて振り返るとともに、現在でも伝統を守り越生うちわを作り続けている唯一の工房、「うちわ工房しまの」のご紹介もいたします。また、幕末・明治期の団扇絵(団扇用に摺られた浮世絵版画)や団扇が描かれた錦絵も併せてご覧いただきます。本展を通して、より多くの皆さまが、越生、ひいては埼玉に残る伝統文化の歴史を知り、現代にも生き続ける越生うちわの息吹を感じ取って頂ければ幸いです。