Vol. 6 法医学教室でのしごと編
「法医学教室」という言葉をドラマで耳にしたことはありませんか?どうしても医者の仕事のように思われがちですが、実は薬学部出身者の中には法医学教室で活躍している人もいるのです!
法医学教室は、警察の捜査に必要な情報を司法解剖によって得て、死因の特定や事件性の有無の鑑定を行う所です。実際の司法解剖では、目に見える異常は、解剖中に確認できますが、原因が目に見えない場合があります。その一つに、薬物による殺害や自殺です。
例えば、道で人が倒れているとしましょう。(あまり良い例えではありませんが。)もちろん、急車か警察を呼ぶと思います。現場で、死亡が確認されると警察医(警察の捜査に協力する医師)を交えた現場検証になります。そこで、事件性を視野に入れて死因を明らかにしなければならない時に、法医学教室で司法解剖になります。皆さんがドラマなどでよく見る司法解剖は、医師がメスを使って解剖するイメージが強いと思います。しかし、先ほどお話しした目に見えない死因を明らかにするためには、ご遺体から採取した血液や尿を用いた薬物検査が行われます。
ここまでの話で、「どこに薬剤師が必要?」と思っていませんか?実は、必要なんです!!
薬学部では、化学、生物学、物理学といった分野を幅広く学びますが、その中で化学と物理学を基礎とした「分析化学」という分野があります。薬学部のカリキュラムの中に、血液や尿から薬毒物を分析する方法について学ぶことも含まれているのです。分析化学は、理学部においても同等以上の知識を習得できますが、法医学分野ではさらに、薬物がどの様に体に効果をもたらすのかの学問領域である「薬理学」と投与された薬物の生体内運命についての学問領域である「薬物動態学」の知識が必要となります。
これらの知識を総動員する例が、死亡推定時刻の推定です。もっとも一般的な方法に体温を測る方法がありますが、薬毒物の服用量が予想される場合(現場の警察官が薬の包装シートやビンを探してきてくれます。)は、血液中と尿中で検出される薬毒物の濃度から検死や司法解剖から得られた死亡推定時刻に矛盾がないことを確認できます。薬毒物が関わる死因では、死亡直前に高体温や低体温になる事があり体温だけの情報では正しい死亡推定時刻がわからない事があります。これは、被疑者がいた場合のアリバイに関係するので大変重要な情報になります。もちろん、検出された薬毒物が致死量であるかどうかの確認も必要になります。
その他にも、法医学教室の仕事はご遺体の検査だけと思われがちですが、大学病院が近くにあるので、薬毒物を服用して救急搬送された患者さんの血液から、何を飲んでしまったのかを分析することもあります。