CONTRIBUTION

卒業生寄稿文

薬粧品動態制御学講座での学びを社会で活かす

【薬科学科/2018年3月卒業/YY11042】
トーヨーケム株式会社
メディカル研究部ケアグループ
二木 美香
私はトーヨーケム株式会社メディカル研究部ケアグループで医薬品、医薬部外品、および化粧品開発等の業務に従事しています。城西大学修士課程では薬粧品動態制御学講座に所属し、杉林堅次先生ならびに藤堂浩明先生にご指導いただき、経皮吸収に関する専門性を身に付けました。修士課程修了後、経皮吸収分野を通して社会に貢献したいと考え、トーヨーケム株式会社に技術職として入社しました。
入社から3年目まで、兵庫県の尼崎工場で治験薬製造のプロセス開発ならびに経皮吸収製剤の処方設計業務に従事しました。特に薬物の皮膚透過性を高める技術開発では、研究室時代に学んだ経皮吸収の知識を活かしつつ、企業研究者として治験薬製造における規制に関する知識を身に付けることができました。入社4年目から現在までは、埼玉県の川越製造所へ異動し、経皮吸収性技術を活かした新規事業開発の立ち上げに取り組んでいます。営業部と協働で市場調査を行い、自社のコア技術を活かすことができる領域を見極め、研究者として技術的に製品化可能か企画立案から評価まで進めています。具体的にはシート状の化粧品の製品や疾患診断デバイスに用いるテープの開発に取り組んでいます。これまでの医薬品、化粧品、及び医療機器の研究開発を通し、幅広い知識を身に付けることができました。
私は、薬粧品動態制御学講座で研究者として「適切なタイミングで周りの人に頼る」ことを学び、今も仕事をする上で大切にしています。企業には様々な専門性に特化した人材が多く所属しており、専門性を掛け合わせながら、価値の高い製品を開発する必要があります。当社はコア技術としてポリマー設計・合成技術を有しており、有機化学を得意とする研究員が多く所属しているため、薬学以外の異分野の研究者と協働する機会にも恵まれています。新規事業開発の領域では、タイムリーにニーズの探索からテーマの立案、テーマ化後は基礎研究からスケールアップ、製品化までのサイクルを回す必要があります。そのためには、「適切なタイミングで社内の専門家に相談」し、専門家を巻き込みながら業務を進めていくことが重要であると実感しています。入社前は、自分が納得するまで論文や書籍、さらには先輩の実験ノートなどのあらゆる資料を調査し、知識のインプットに時間をかけていました。それでも分からないことがあれば周囲の協力を仰ぐことで、自分の研究を進めていました。仕事の進め方に正解はないと考えていますが、企業研究者として新規事業を提案するには早期から周囲に相談することで、効率よく開発可能性の見極めやニーズの探索ができると感じています。将来は、より専門性の幅を広げ、周囲の専門家を巻き込みながら、社会ニーズを満たす技術開発を推進できる研究者になりたいと考え、日々業務に従事しています。
また、皮膚科学領域における専門性をより高めたいという思いから、社会人2年目に薬粧品動態制御学講座へ博士後期課程として入学し、研究テーマとして医療機器を用いた皮膚内への薬物送達ならびに皮膚内の薬物動態について取り組みました。社会人の経験も踏まえ、自由に研究に取り組むことができる大学の環境の素晴らしさを改めて実感しています。前述の通り、企業では営利を目的とする以上、限られた時間の中で、目的に沿った業務を進める必要があり、科学の追求だけではなく、ビジネス(利益)の観点も含め優先順位を設定しなければなりません。時には、科学的に探究したい事象を見出しても、利益につながらないという理由で解明するリソースを割けない場面にも直面します。しかし、大学であれば科学の探求に注力し、興味を持った研究に存分に集中することができます。社会人として改めて大学に入学したことで、大学での研究活動の素晴らしさを実感しました。そのため、日中は会社で業務に取り組み、夕方から終電まで大学で実験した日々は体力的に辛いこともありましたが、裁量をもって研究に取り組むことができたため、好奇心を満たしながら楽しく取り組むことができました。また、在学生と和気あいあいと過ごした時間は私にとって大切な思い出です。社会人の私に合わせていつも遅くまで残ってくれた学生の皆様には感謝しきれません。
最後に、修士修了1年後にもかかわらず、博士後期課程への進学を快く引き受けてくださった藤堂浩明教授にこの場を借りて心より深く御礼申し上げます。学位取得にあたり、多大なご指導をいただきましたこと、感謝を申し上げます。社会人を経験してから大学に入学することで、先生の陰ながらの学生へのご配慮を実感しました。また、私たちが卒業後に社会で活躍できるよう、研究室運営を十分に配慮されていると実感しました。学部から博士後期課程の計7年間を通して、先生から学んだ専門性、研究に対する姿勢、未知の事象へのアプローチなど書ききれないことばかりですが、これまで学んだ知識を仕事で活かし、企業での研究活動や製品開発を通して社会に貢献します。

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