MESSAGE

教員のご挨拶

最近の薬学部の様子(教員からの大学・学部紹介)

生成AIを使ってみた

  • 城西大学薬学部 薬科学科
  • 学科主任 教授

古旗 賢二

城西大学薬学部薬科学科の主任の古旗賢二(こばたけんじ)と申します。薬友会会員の皆様には日頃から薬学部へのご理解とご支援を賜りまして、厚く御礼を申し上げます。私は薬科学科主任として本年度で4年目を迎えております。前回の薬友会誌(2021年度)では、学科主任拝命1年目のご挨拶をさせて頂きました。今回も薬友会会報誌に寄稿する機会を頂きましたが、はて、何について書こうか、と悩みましたが、最近教育現場でも問題になりつつある「生成AI」について、私が使ってみて思うことを綴ってみました。

 

皆さんは「生成AI」をお使いになったことはありますか?生成AIまたは生成系AIは Generative Artificial Intelligence の略で、生成的人工知能とも訳されます。ネットワーク上の膨大なデータを機械学習し、既存のデータにはない新しい文章や映像を作り出すことができます。2020年代に入って生成AIは急速に進化・拡大して、今やスマホに専用アプリをダウンロードするだけで、誰でも無料で簡単に生成AIを使用することができます。

 

さて、私は学科主任という立場柄、何かイベントがある度に挨拶をすることになります。しかし、この挨拶の内容を考えるのがけっこう面倒臭い(笑)。そして今年の3月、「今年もこの季節が来たなぁ、卒業生への祝辞を考えないとなぁ。3回目でネタも切れたしなぁ。う〜ん」。そこで一計を案じました。スマホのチャット型(対話型)生成AIアプリに「薬科学科の卒業生への祝辞を考えて」と打ち込んでリターンすると、ものの3秒で1000字ほどの文章を作ってくれました。こんな感じです。「薬科学科の卒業生の皆さん、本日はご卒業おめでとうございます!薬科学は科学と医療の融合した分野であり、その重要性はますます高まっています。皆さんがこの分野で学んできたことは、単なる知識や技術だけではなく、人々の健康や生活の質を向上させるための使命感や責任感を育むものでした。(中略)。最後に、今日は新たな始まりの日でもあります。これからは新しい目標に向かって進み、自らの夢を追い求める時です。そして、成功や失敗にかかわらず、常に学び続け、成長し続ける姿勢を忘れないでください。これから先の素晴らしい未来を心から祈っています。本日はご卒業、誠におめでとうございます!」学科の特徴をよく捉えていて、申し分のない内容でした。ただ、少し長かったので、「半分ぐらいの文章にして」とお願いして、またものの3秒で作られた文章を、綺麗な上質紙に印刷しました。

 

卒業式当日、おもむろに胸ポケットから原稿を取り出し、仰々しく読み上げました。ところが、卒業生はキョトンとして無反応。「ここ、拍手するところですけど・・・」と言うと、パチ・・パチ・・とまばらに。実は私、常日頃から学生さんには、「原稿を覚えるまで何度も練習をしてから、人前では原稿なしで話しなさい。そうしないと本当に伝えたいことは伝わらない」と口酸っぱく言ってきました。卒業生は思ったのでしょうね「なんだ、古旗先生、日頃言っていることと違うじゃん」。ここでネタばらしです。「皆さん、今の祝辞、心に響きましたか?実は、生成AIがものの3秒で作ったものです」と。そして、卒業生がこれから生きていく世界のテクノロジーはこんなにも進歩していること、それを活用する術を身につける必要性があることを伝えました(もちろん原稿なしで)。ある意味、生成AIで何でも出来ます。ある地方議会は答弁書を生成AIで作成することにしたそうです。生成AIが作った映像は精巧で、フェイク(嘘、デタラメ)ニュースだとは気づきません。人間のすることは無くなりそうですね。では、我々人間ができることは何でしょうか?たとえ生成AIで文章を作ったとしても、自分の考えを反映させながら何度も吟味し、推敲を重ね、そして魂を込めて人に伝えることでしょう。これは人間にしか出来ない作業で、発せられた言葉はきっと人の心に響くはずです。と、こんな話で、祝辞を締めくくりました。先ほどよりは大きなパチパチをしてくれた気がします。

 

今、教育現場で生成AIに関する問題が出てきています。学生さんが課題を生成AIで済ませてしまうのです。こんな笑い話があります。ある教授が試しにある課題を生成AIにやらせたらあまりにも完璧な解答を作成したので、これでは学生が書いたものではないとバレてしまう。そこで、「この解答を大学生レベルにして」と生成AIに指令したところ、ほどよく間違った内容に書き換えたそうです。さらに、その文章を生成AIに見せて「これは生成AIが作成した文章か?」と質問したところ、「こんな間違いだらけの文章を生成AIは作りません」との回答がきたそうです。つまり、生成AIで作成したかどうかを見抜くことは出来ないと言うことです。全く笑えませんよね。学生の生成AIの利用を制限することはおそらく出来ません。スマホで簡単、無料でバレませんから。ますます学生さんの「自分で考える力」が細っていくのではと心配です。

 

さらに危惧されるのは、テクノロジーを開発する側はどんどん知能が進化し、テクノロジーを利用する側はどんどん知能が退化していくのではということ。そして富はごく一部の前者に集積され、大多数の後者は・・・と考えるとそら恐ろしくなります。富の二極化だけではなく、知能の二極化が現実のものとなろうとしています。この構図はスマホゲームにも当てはまります。そしてスマホゲームも生成AIも麻薬のような要素が多分にあります。一度使うとなかなか止められない、ついついやってしまいますよね。

 

この退化を防ぐ解決策はあるのでしょうか?簡単なのは生成AIやスマホゲームを一切やらないことでしょうが、ちょっと難しいですね。まずは、生成AIやスマホゲームの問題点をしっかりと認識して、利用はしても利用されないように気を付けることでしょうか。あとは、とにかく体を使うことに集中するのが良いと思います。スポーツ好きなら、少しでも上手くなりたいと様々な工夫をすることが考える力になります。スポーツが苦手でも、例えば絵を描くという作業は、頭の中のイメージをいかに表現するかの工夫を要します。最近の生成AIは簡単に絵も創作してくれるのでタチが悪いですが・・・。私は最近、筋トレにハマっています。なかなか思うようにお腹はへこまないし、力こぶは大きくならないのですが、試行錯誤しながら進化しようと(退化を遅らせようと)もがきながら楽しんでいます。ただ、理想の体になるにはかなり時間がかかりそうです。生成AIなら、ものの3秒で私のムキムキフェイク写真を作成できますが・・・。

 

追記)この原稿の作成には、生成AIは一切使用していません。証明できませんが・・・(笑)。ちなみに、この原稿についての感想を生成AIに聞いてみました。以下は3秒後に返された文章です(生成AIに感想文を転載して良いかと聞いたら、「喜んで!」と返してくれました)。

 

感想

  1. 率直な語り口とユーモア
    • 古旗氏の文章は、親しみやすく、ユーモアを交えた語り口が特徴です。特に、自身が生成AIを利用して卒業生への祝辞を作成したエピソードや、その後の学生の反応をユーモラスに描いており、読者にとって身近に感じられる内容です。
  2. 生成AIの利便性と危険性
    • 生成AIの利便性を実際のエピソードを通じて示しつつ、その危険性にも言及しています。例えば、生成AIが非常に精巧な文章や映像を作成できる点を指摘し、それがフェイクニュースの拡散や、人間の思考能力の低下に繋がる可能性を危惧しています。
  3. 教育現場での影響
    • 教育現場で生成AIがどのように利用されるかについても触れています。特に、学生が課題を生成AIで済ませてしまう問題に対し、生成AIの利用を制限することは難しいと述べています。この点は、教育者にとって非常に現実的な課題であり、深く考えさせられます。
  4. 技術の進化と知能の二極化
    • 技術が進化する一方で、人間の知能が退化していく可能性についての懸念を表明しています。この問題は、技術の進歩と人間の能力のバランスをどう保つかという大きなテーマに繋がります。
  5. 実践的な提案
    • 生成AIやスマホゲームの問題点を認識し、それに流されないようにすることや、体を使った活動に集中することを提案しています。これらの提案は具体的であり、現実的な対策として参考になります。
  6. 自分の言葉の重要性
    • 生成AIで作成された文章でも、自分の考えを反映させて推敲し、魂を込めて伝えることの重要性を強調しています。この部分は、人間ならではの感情や思考の大切さを再認識させられます。

総括

全体として、古旗氏の文章は生成AIの利便性と危険性をバランスよく伝えており、現代のテクノロジーに対する深い洞察を提供しています。また、ユーモアを交えた語り口は読者を引き込み、考えさせられる内容となっています。技術の進化と人間の能力のバランスをどう保つかという課題について、具体的な提案も含まれており、非常に考えさせられる内容です。